本当のことを言えば、ボクはシルヴィ・ヴァルタンのファンではないし、知っている曲といえば「アイドルを探せ」くらい。それでも現代の耳には少しシンプルすぎる、などと思ったくらい。あ、あと「あなたのとりこ」はCMで使われていたから皆さんも知っているはず。
フレンチ・ポップスの最大の魅力は、フランス語の響きそのものだ。ポップスといえば英語で歌われる、という先入観があればこそ、フランス語の独特のアクセントはエキゾティックな美しさを増す。
ジャケットに魅かれて買ってしまったシルヴィのCDは、正直あまり良い内容ではなかったけれど、一曲だけ素晴らしい歌があって。それは「カミン・ホーム・ベイビィ」というジャズ・シンガーのメル・トーメのヒット曲のフランス語でのカヴァー。
モッドな人が好むであろう軽快な曲だが、あまりリズミカルとは言えないフランス語の詞をシルヴィが一生懸命にアップテンポで歌いこなそうとする。そこには情感とかニュアンスというものが欠落してしまっていて、これが男性のヴォーカリストならただ単に一本調子のスカンピン・ウォークと片付けてしまうのだが、これがシルヴィのように可愛い声の持ち主だと、むしろクールな印象に聴こえてしまう。
フレンチ・ポップスに魅力を感じるのは、そんな瞬間だったりする。
思えばフランス・ギャルにしてもフランソワーズ・アルディにしても、アンニュイなどというのではない、ただぶっきらぼうで怒ったような歌の表情を、ボクは好んで聴いていた。フランス・ギャルは、アイドル・ポップスとして世界最高峰の形。いまさらゲーンズブール追悼。アルディは『ジン・トニック』というアルバムがお気に入り。大きくドアを開けた空の冷蔵庫にすっぽりと座り込むアルディ。黒いTシャツとペインター・パンツふうのジーンズ。ハイヒールは脱いで、冷蔵庫のストッカーに押し込んである。いつものように無表情なスタイル。ひどく涼しげなポートレイト。少し無駄話。
だいぶ前に聴いたことのあったMCソラールとかいうフランス人のラッパーは、小気味良いほどフランス語をパーカッシヴに操っていた。
字余り、字足らずのシャンソンを、懸命にビートに乗せようとしていた六十年代のアイドルたちの、フランス語との格闘時代はそのときようやく終わった。なんてことは、ひとつも思ったことはないけれど。
空耳アワーでの、シルヴィ・ヴァルタン。
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